現在の高校生が生まれた頃、2000年代前半から大阪ガスにはデータ専門の部署「ビジネスアナリシスセンター (※発足当初は別名称)」が存在し、 その活動領域はDaigasグループ全体に渡り幅広い分野でイノベーション(技術改新)を起こし続けています。 今回はそのビジネスアナリシスセンター所長である岡村 智仁氏にお話を聞きました。
昨今では企業におけるデータ活用が注目されていますが、20年ほど前の組織発足当初は周囲の反応はどのようなものだったのでしょうか。
もともと私の入社時(2001年入社)から前身となるデータ分析のチームがあったのですが、今とは名称が異なり、 また場所?組織も現在の大阪ガス本社(中央区)ではなくR&D組織の中にありました。
当時は今のように注目されるような組織ではなく、知る人ぞ知る…という存在でした。
そのような状況から、いまや世間から注目される組織になったきっかけは?
「移動」と「異動」がきっかけになったと思います。2006年に情報通信部(現在のDX企画部)というIT部門へ組織異動、場所も本社へ移ったことで大きな変化がありました。
ひとつは、場所の「移動」によるコミュニケーションの機会の増加です。
当時は今と比べてオンライン打ち合わせはスタンダードではなかったので、本社で打ち合わせをしようにも小一時間かけて出向く必要がありました。 それが移動後はワンフロア移動すればいつでも顔を合わせられる。これによりコミュニケーションの機会が圧倒的に増えました。
もう一つは、組織の「異動」による周囲の環境の変化です。
これまではR&D組織内であったため日々データ分析を突き詰めるという視点で仕事をしがちでしたが、 IT部門に編成されたことでこれまであまり話すことがなかったビジネスの現場に近い人たちとコミュニケーションを取るようになり、 その中で現場に必要とされているのは難しい解析手法や高度な技術ではなく「ビジネス課題の解決そのものである」と発想の転換ができたという事です。
この2つの変化は、現在のビジネスアナリシスセンターの基盤をつくる大きなきっかけとなりました。
これまでにビジネスアナリシスセンターが携わった案件で、一般的でわかりやすい事例を教えてください。
一つ目の事例は、メンテナンス傾向部品推定による故障対応のスピード化です。
当時、他部門からの依頼はまだまだ多くなく、こちらからきっかけを作ろうと「ガス機器の故障修理データ」に着目しました。 弊社では現在のようなデータ分析を始めるよりもずっと前から、ガス機器が故障した際にお客様からいただいた修理依頼電話の内容と、 実際の修理に用いた部品などのデータを残していました。 そのデータを用い、 Excelのマクロ機能を使って「事象を入力すると使用される確率が高い部品の上位5候補が表示される」ツールを作成し、 一部の方に実際に現場で使ってもらいました。
そうすると、使ってみた感想をフィードバックしてくれたり、周囲に口コミで広げてくれたりと反応が返ってくるようになり「ではもっと使いやすくするため、 きちんとした業務システムを作成しましょう!」と提案し、実施に至りました。 その業務システムは現在も現役で活躍しています。
二つ目の事例は、販売営業の効率化です。
家庭用のガスや電気契約の営業をする時、あらかじめ契約して頂ける確率が高そうなお客様をAIを使ってリストアップすることで営業効率を高めることに貢献しました。
他部署と関わるうえで心がけていることがあれば教えてください。
信頼関係の構築を第一に心がけています。
自分たちがどんなにいい仕事をしようと、事業部の人たちに現場で活用してもらわないと意味がありません。私たちの仕事は事業部の方々の協力が必要不可欠なのです。 ですので、事業部の方に「ビジネスアナリシスセンターは頼りになる」「あの人に相談すればきっと解決してくれる」と思ってもらえるようにと日々心がけています。
そのための一番の近道は成功事例をつくることです。
一度実際に課題を解決した事例をつくっておくことで次の依頼に繋がり、また、依頼をくれた担当者が人事異動先で新しい課題に直面した時「今こんな事で困っているんだけど…」と、新たな相談を持ちかけてくれるようになります。
とはいえ、最初のきっかけを作るのはなかなか難しく「新しい事をしよう、データ分析しよう」と言っても、好意的に反応してくれるのは全体の2割程度にしか及びません。しかしその2割の「やりたい人」の心を動かし刺さりこむことにより協力を得られ、格段に案件を進めやすくなります。
ですので私は、最初に提案を持ち込む時にその中で一番話を聞いてくれている人をしっかり見極めるようにしています。
反対に「乗り気でない人」を説得するのはとても大変なのですが(笑)最初乗り気じゃなかった方を変化球で上手く巻き込んだ事もあります。
話を持ち込んだ当初は別の方が話の中心だったのですが、話を進めていくうちにどうやら同席している営業担当者と話をすすめた方が話が早そうだと感じ、次のプレゼンの機会にはその営業担当者向けに資料を作成しました。
そうすることで見事に反応してくれて、「ぜひそのサービスを作ってくれ、自分が売るから!」となり話がトントン拍子に進んだ、なんていうことがありました。
データサイエンティストに必要な力とはどんなものでしょうか?
一般的には数学力などを想像されると思いますが、その質問に対しては「出来るに越したことはないがマストではない」とお返します。
では「マスト」の条件は何か?それは「知的好奇心が旺盛」な事だと思います。
今世の中では新型ウイルスの出現や国同志の諍いなど、誰もが予測し得なかった事が起こっていますし、もちろん今後どうなるか誰にも分かりません。 そうなると当然、世の中の動きに合わせてビジネスの課題も変わってきます。
そんな課題をいちはやくキャッチし事業部のニーズを予測し先回りして提案するためには、常にアンテナを張って世の中の動きに関心を持ち続けることは欠かせません。
データサイエンティストの仕事では「この技術だけ?この知識だけ持っていればいい」というものはありません。
専門的に一つの仕事だけをこなすより、色んなことに興味を持って色んなことにチャレンジしてくれる方がよっぽど意味がある。 そんな意味でも知的好奇心旺盛という要素はデータサイエンティストに必要不可欠だと思います。
ビジネスアナリシスセンターへ配属される基準は?
本センターへ人事異動で配属された事例は少なく、基本的に新卒学生が配属されて育成していくのが主流です。
私が直接選べる訳ではないのですが、結果的に知的好奇心が旺盛なメンバーが集まってきていますね。そこは人事部が上手く適性を見抜いて配属してくれているのかも知れません。
現在ビジネスアナリシスセンターのメンバーは14名いますが、あらかじめ統計?分析の知識があったメンバーは3割くらい。未経験者のほうが圧倒的に多いですね。
これまではOJTを通じて教育し、仕事を覚えていってもらっていたのですが、丁度今年からきちんとした新人教育を始めました(笑)実はこのプログラムも私が用意したものではなく、センターでの経験において成長した中堅スタッフが更なるチームの強化をめざしたいと能動的に提案し、カリキュラムを用意してくれたものです。
データサイエンティストならではのやりがいや楽しさを教えてください。
事業会社の中のデータサイエンティストの強みとしては、加工されたデータではなく生データを直接触れることですね。これは社外コンサルにはない大きな強みでもあります。
他にも、事業部を通じて擬似的にビジネスを体験できるのが楽しいですね。私たちは直接ビジネスに関わることはありませんが、 事業部のメンバーと伴走することによって一緒に考えたサービスが世の中にどう受け入れられているのか、それを知ることができます。
これが事業会社の中のデータサイエンティストとして活躍するうえでの大きな喜びではないかと思っています。
データサイエンティストとしてのポリシーや心がけていることがあれば教えてください。
これは前任の河本(現滋賀大学教授)が強く言っていたことであり、私も深く共感している事なのですが、「データ分析で導いた結論や数字に責任を持つこと」です。
自分が出した数字によって会社が良い方に進むこともあれば、もしかしたら悪い方向に進んでしまう可能性もある。それをきちんと自覚して、自分が絶対に自信が持てる数字のみを出すこと。裏付けのとれていない中途半端な数字は出さない。
それを無理なく実現するために、当センターでは各メンバーが「やりたいテーマ」を尊重して仕事してもらっています。
やらされた仕事ではどうしても中途半端、優良可だと「可」で終えてしまいがちですが、自分のやりたいテーマだと決して手を抜かずとことん突き詰める。仕事に情熱を持てるかどうかがとても重要だと思っていますので、私のチームでは基本「やらされ仕事」はゼロです。
現在チームは14名になりましたが、世の中でデータ分析や活用のニーズが高まって行く中でさらにメンバーを増やす事にも繋がればいいなと思っています。
データサイエンティスト志望の学生は、数学の知識以外にどんな事を学んでいればいいですか?
ずばり、これというのはないと思います(笑)
学びというよりは、何でもいいから自分が関心や情熱を持っている事柄に打ち込んで、その知識や技能を習得して欲しいですね。 そんな時間を持てるのは学生時代ならではですので、今の時間を有意義に使ってもらいたいと思います。そしてその経験で得た雑学は、きっといつか役に立つ時がきます。
弊社はエネルギー会社なのですが、商社?海運業、製造、インフラ、マーケティング、メーカー、販売、メンテナンスなど多岐にわたる業種の集合体なのです。
ビジネスアナリシスセンターのメンバーの経歴や興味は多種多様で、学生時代から数理工学?統計学に関わっていたのは3割程度です。 しかしそのお陰で社内から寄せられるあらゆるジャンルのビジネス課題に対応することができています。
高校生の皆さんも自分の興味のある分野で雑学を貯めておくことで、きっと将来データサイエンティストとして働く時には役に立つことがあるかと思います。
大学生時代からデータサイエンスを学ぶことによって、社会に出た時の利点などがあると思われますか?
有利になる事は間違いないかなと思います。
データサイエンティストとして就職する時はもちろん、データサイエンティストとしての就職でない場合でも、どんな事業や仕事においてもデータをもとに考える場面は必ず出てきます。 そんな時に学生時代データサイエンスを学んだ経験は必ず役に立ちますし、将来の選択肢が増えると思います。
データサイエンティストをめざす高校生へのメッセージをお願いします。
事業会社の中でデータサイエンスを20年やってきましたが、現在ではもはやデータ分析は当たり前のものとなってきました。
その一方で、近頃ではデータ分析?データ活用が業務システムに組み込まれ意思決定に使われ、その結果がビジネスを大きく左右することも増えてきています。 自分の取り組み方次第で、会社や世の中に大きく貢献することもあれば悪影響になるリスクもある。これからデータサイエンティストをめざす学生さんにはその重要性をしっかり心に持っていただきたいです。
データ活用が求められる世の中には確実になってきているので、期待を持って勉学に取り組んでいただけばきっとみなさんの将来は開いていけると思います。
【お知らせ】
?2022/8/6(土)オープンキャンパスにて岡村氏特別講演会開催。>>オープンキャンパス情報はこちら
?データサイエンス学部(※)について詳しく紹介しています。>>データサイエンス学部特設ページはこちら
(※)令和4年10月27日(木)付で文部科学省より設置認可されました。(11月9日追記)